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329    ARTISTS    t-ACE

t-Ace
 
Text by Hiroyuki Ichinoki / Photo by Masataka Ishida
 

 自らの実生活に沿ったリリックに、自らの道のりを映してきたラッパー、t-Ace。限定プレスで、はや店頭在庫を残すのみとなったEP『雨』でも、その世界観は変わることはない。様々なアーティストのバックアップも得て、『雨』は彼の世界を色濃く映している。
 
 沖縄に生まれ、3歳ほどで父の転勤とともに引越し。その後両親の離婚により親戚の家を転々とし、最後は祖父母の家に。12歳を迎える頃には父親の再婚で父と新しい母親、後に生まれる腹違いの弟との暮らしを始めるが、家族のすれ違いの中、進学した高校は退学。さらには自らが原因で近しい友人が殺害される事件まで起こってしまう......過去のそうした一つ一つから、t-Aceがまっすぐ平穏な人生を歩んできたわけではないことが手にとるようにわかる。しかし、その順調ならざる日々があったからこそ、t-Aceがラッパーともなり、進むべき音楽という道を見つけられたのかもしれない。彼が発表したEP『雨』からも、その生い立ちに差す影が見える。彼の曲は常に実生活とともにあり、日々の生活に影を抱えて歩いていく男の自画像ともなる。
 
 客演をまじえず自らほぼ全編のプロデュース/エンジニアリングまでを手がけてリリースした二部作『孤高の華』に次ぐ作品となる今回の『雨』。収録された4曲で、t-Aceは積極的に外部プロデューサーと客演勢を起用した。
 
 t-AceとこれまでもゆかりのあるMuroとSuiの共同プロデュースとなる「Over the Day」には、彼と同じく6月に新作を発表したばかりのシンガーLunaがフィーチャリングで参加。彼女の陰影深く刻まれたアカペラに導かれはじまる曲は、歯噛みしながら耐えた辛い日々、ただただ過ぎ去るのを待っていた日々を思い返す。越えるべき壁がこれからも待っているであろう自らへの、そして壁を越える全ての人へのエールとしてそれは形となっている。続く「伝言」はI-DeAをトラックに迎え、仲間や家族に曲で送るラヴレターともいうべき仕上がり。t-Aceが曲にしたためた親愛の念を後押しするように、Youngshimの添えるヴォーカルが曲を伸びやかに響かせた。
 
次なる「ボンクラ」は今回唯一となるt-Aceのソロ曲に。"勘違いのガキ"だった自分と"ヘマばっか"の"あいつ"、人それぞれに"ボンクラ"な部分を持ちあわせ、時に傷つけあうことはあっても、最後は笑って手を合わせる、そんな友情は尊い。"オレだってココまでの人生/成功より失敗が原点"--t-Aceというラッパーの出発点をも知らしめる曲にこの「ボンクラ」はなっている。EPの最後を飾るのは、新ユニットKAMを始動させたばかりの朝本浩文がプロデュースを手がけたEPタイトル曲。育ててくれた祖父の真新しい死に思うその人生、家族、ひるがえって自分と思いを共にしてくれるだろう誰かに向け歌う曲は、祖父の魂を鎮めるこだま和文のトランペットをはなむけに、静かな終わりを迎える。
 
 雨が濡らした歩道を、傘も差さずに歩くt-Aceの姿をとらえた『雨』のEPカヴァー。モノクロームにも近い淡い色調でとらえたそれほど、このEPにふさわしい絵もない。傘はなくとも日々は続き、たとえ雨脚が強くなろうとも、t-Aceはラッパーとして歩んでいくのだ。


 

「雨」
t-Ace
[Overheat / OHM-0079]

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